まだ動くからといって、そのiPhoneを使い続けるのは「鍵のない家」に住むのと同じです。「画面も割れていないし、動作も遅くない。ただiOSのアップデートが来なくなっただけ。まだ使えるのになぜ買い替えなきゃいけないの?」
愛着のあるiPhoneを長く大切に使いたいと考えるのは当然のことです。特に近年のiPhoneは高性能化しており、発売から5〜6年経過しても日常使いには問題ないスペックを持っています。しかし、「動くこと」と「安全に使えること」は全く別の問題です。
この記事では、IT機器の専門家としての視点から、サポート終了(アップデート対象外)になったiPhoneを使い続ける具体的なリスクと、どうしても手放せない場合の安全な活用法、そして損をしない買い替えの判断基準を、初心者にもわかりやすく徹底解説します。これを読めば、あなたのスマホライフを守るための正しい判断ができるようになります。
iPhoneの「アップデート対象外」とはどういう状態か?
まず、基礎知識として「アップデート対象外」が何を意味するのかを整理しましょう。ここを誤解していると、不必要な不安を感じたり、逆に危険な楽観視をしてしまったりします。
iOSアップデートとセキュリティアップデートの違い
Appleのサポートには大きく分けて2つのフェーズがあります。
- メジャーアップデート終了(機能更新の停止)
- 毎年秋にリリースされる新しいiOS(iOS 17, iOS 18など)に対応しなくなる状態です。新機能は使えませんが、この時点ではまだ致命的ではありません。
- セキュリティアップデート終了(完全なサポート終了)
- これが最も重要です。メジャーアップデートが終了しても、Appleは数年間は重要なセキュリティ修正(セキュリティパッチ)を提供し続けます。しかし、ある日突然これも停止します。ここが本当の「寿命」です。
「いつまで使える?」の答え
結論から言うと、「セキュリティアップデートが配布されている間」はギリギリ使えますが、推奨はされません。
そして、「セキュリティアップデートも止まった瞬間」に、その端末はインターネットに接続してはいけない危険物となります。
危険度MAX!サポート終了機種を使い続ける3つの致命的リスク

「自分は有名人じゃないからハッキングなんてされない」と思っていませんか?実は、サポート終了機種を狙う攻撃は無差別に行われます。ここでは、具体的にどのような被害に遭う可能性があるのか、3つのポイントで解説します。
1. セキュリティの脆弱性を突かれ、全財産を失うリスク
iOSのアップデートには、ハッカーが見つけた「裏口(脆弱性)」を塞ぐ役割があります。サポートが終了すると、この裏口が開けっ放しの状態になります。
- ウイルス感染・遠隔操作: Webサイトを見ただけでウイルスに感染し、カメラを勝手に起動されたり、マイクで会話を盗聴されたりするリスクがあります。
- クレジットカード・銀行口座の不正利用: 端末内のパスワード情報が漏洩し、ネットバンキングから預金が送金されたり、クレジットカードを不正利用されるケースが報告されています。
- ランサムウェア被害: 写真や連絡先などのデータを人質に取られ、「身代金」を要求される可能性があります。
専門家の警告:
サポート終了後のOSを使うことは、泥棒に「この家の鍵は壊れています」と張り紙をしているようなものです。セキュリティソフトを入れても、OS自体の穴は塞げません。
2. 「LINE」や生活インフラアプリが突然使えなくなる
多くの日本人にとって、これが最も現実的で不便な問題です。アプリの開発者は、セキュリティを担保できない古いiOSのサポートを順次打ち切ります。
- LINEの停止: LINEは古いiOSバージョンのサポートを定期的に終了します。サポートが切れると、アプリのアップデートができなくなるだけでなく、トーク履歴のバックアップや引き継ぎ、最悪の場合はアプリの起動自体ができなくなります。
- 銀行・決済アプリ(PayPayなど): 金融系アプリはセキュリティ基準が非常に厳しいため、OSのサポート終了とほぼ同時に利用不可になることが多いです。「レジで支払おうとしたらアプリが開かない」という事態に陥ります。
- 政府系・身分証明アプリ: マイナンバーカードの読み取りや、確定申告(e-Tax)などのアプリも、最新に近いOS環境を要求するため利用できなくなります。
3. Appleの修理受付終了(オブソリート製品)
ソフトウェアだけでなく、ハードウェアのサポートも終了します。
Appleは製造中止から5年以上7年未満の製品を「ビンテージ製品」、7年以上を「オブソリート製品」と定義しています。
- バッテリー交換不可: 電池持ちが悪くなっても、Apple正規店ではバッテリー交換を断られます。
- 故障したら終わり: 画面割れやホームボタンの故障があっても、部品の在庫がないため修理できません。非正規店での修理も可能ですが、セキュリティリスクがある端末にお金をかけるのはコストパフォーマンスが悪すぎます。
【検証】サポート終了iPhoneで「できること」と「できないこと」比較表
ここでは、具体的にどの機能が制限されるのかを一覧表で整理しました。
| 機能・アプリ | サポート中 | サポート終了(初期) | 完全終了(危険領域) |
| 通話・SMS | ○ | ○ | ○(※通信規格が変わらない限り) |
| Webブラウジング | ○ | △(表示崩れ・警告頻発) | ×(危険・接続不可) |
| LINE | ○ | △(機能制限あり) | ×(起動不可・引継ぎ不可) |
| YouTube | ○ | △(アプリ非対応・ブラウザ視聴のみ) | △(動作不安定) |
| 銀行・PayPay | ○ | ×(早期に利用不可) | × |
| カメラ・写真 | ○ | ○ | ○ |
| 音楽再生 | ○ | ○ | ○ |
| iCloudバックアップ | ○ | ○ | △(バージョン差で復元不可の可能性) |
まだ捨てないで!対象外iPhoneの安全な「3つの活用法」と具体例

メイン機としては引退せざるを得ないiPhoneですが、高性能なハードウェア自体は生きています。インターネット接続(特に個人情報の入力)を避ければ、便利なガジェットとして「第2の人生」を送ることができます。
活用法1:完全オフラインの「超高性能メディアプレイヤー」
SIMカードを抜き、機内モードまたはWi-Fi接続を限定的にすることで、専用機として活用します。
- iPod Touchの代わり: Apple MusicやSpotifyで楽曲をダウンロード(オフライン保存)しておけば、通勤・通学用の音楽プレイヤーになります。メインスマホのバッテリー節約にもなります。
- 電子書籍リーダー: Kindleなどのアプリで書籍をダウンロードしておけば、カフェや寝室での読書専用機として最適です。通知が入らないので読書に没頭できます。
- カーナビ・ドライブレコーダー: Googleマップのオフラインマップ機能を使えば、通信なしでカーナビとして使えます。また、ドライブレコーダーアプリを入れれば、高画質なドラレコ代わりにもなります。
活用法2:自宅専用の「スマートホームコントローラー」
自宅のWi-Fi環境下のみで使用し、個人情報は一切入れない設定にします。
- リモコン専用機: Apple TVやFire TV Stickのリモコン、スマートライト(Philips Hueなど)の操作パネルとしてリビングに常設します。
- キッチンタイマー・レシピ閲覧: クックパッドやYouTubeのレシピ動画を見る専用端末としてキッチンに置きます。水や油で汚れても、古い機種なら精神的ダメージが少ないのがメリットです。
活用法3:子供用の「見守り・ゲーム端末」
まだスマホを持たせるには早い年齢のお子様向けに、Wi-Fi環境下限定で貸し出す端末として利用します。
- 学習アプリ・動画視聴: 「YouTube Kids」や知育アプリ専用にします。
- 【重要】制限設定(スクリーンタイム): 「設定」>「スクリーンタイム」から、Webブラウザ(Safari)の使用を禁止し、アプリのインストールを制限することで、誤って危険なサイトにアクセスするリスクを物理的に遮断できます。
買い替えを迷っている方へ:損をしないための判断基準
「いつ買い替えるべきか?」
その答えは、**「メインで使っているアプリの1つでも『iOSのバージョンが古いためインストールできません』と表示された時」**が最終デッドラインです。しかし、余裕を持って移行するためのベストなタイミングは以下の通りです。
おすすめの乗り換え先(2025年版)
最新のiPhone Proモデルである必要はありません。コストを抑えつつ長く使えるモデルを選びましょう。
- iPhone SE (第3世代/第4世代):
- おすすめな人: ホームボタンにこだわりたい、片手サイズがいい、安く済ませたい人。
- 特徴: 最新に近いチップを搭載しているため、今後5年はOSサポートが続く安心感があります。
- 2〜3世代前の型落ちモデル(iPhone 13 / 14):
- おすすめな人: 画面サイズやバッテリー持ちを重視したい、カメラ性能もこだわりたい人。
- 特徴: 中古市場やキャリアの認定中古品(Certified)で安く手に入り、性能は現役トップクラスです。
- Androidへの乗り換え:
- おすすめな人: iPhoneの価格高騰についていけない、カスタマイズ性を重視したい人。
- 特徴: Google Pixelシリーズなどは、長期間のセキュリティアップデートを保証しており、iPhoneからのデータ移行も簡単になっています。
- [初心者でも失敗しない!iPhoneの中古端末の選び方と注意点]
- [iPhoneのバッテリー寿命を延ばす5つの設定と交換時期の目安]
- [今さら聞けない!格安SIMへの乗り換え手順完全ガイド]
FAQ:よくある質問
ここでは、サポート終了に関連してよく寄せられる質問にQ&A形式で回答します。
Q1. セキュリティソフトを入れておけば、サポート終了後も安全ですか?
A. いいえ、不十分です。
セキュリティソフトは「泥棒(ウイルス)」の侵入を防ぐものですが、OSのアップデート終了は「家の壁に穴が開いている状態」です。ソフトが検知できないレベルでシステム内部に侵入されるリスクがあるため、ソフトを入れても根本的な解決にはなりません。
Q2. ネットに繋がなければ(オフラインなら)問題ないですか?
A. はい、基本的に問題ありません。
外部との通信を絶てば、ウイルスが入ってくる経路も、情報が出ていく経路もありません。音楽プレイヤーやカメラ、目覚まし時計として使う分には安全です。ただし、PCに繋いでデータを移す際などは、PC側への感染リスクに注意が必要です。
Q3. 家族や友人に譲っても大丈夫ですか?
A. おすすめしません。
譲られた相手(特に子供や高齢者)がセキュリティリスクを理解せずに使い、被害に遭う可能性があります。「Wi-Fi専用のサブ機」としてのリスクを説明できる場合を除き、メイン機として譲渡するのは避けましょう。Appleの下取り(Trade In)に出して、リサイクルするのが最も安全で環境にも優しい選択です。
まとめ:リスクを正しく理解し、安全なデジタルライフを
iPhoneのアップデート対象外(サポート終了)になった機種を使い続けることのリスクと、その後の活用法について解説しました。
重要なポイントの振り返り:
- セキュリティリスクは甚大: 個人情報流出や乗っ取りの危険性が高く、メイン機としての利用はNG。
- アプリの寿命が来る: LINEや銀行アプリが使えなくなり、生活に支障が出る。
- 捨てるのはもったいない: Wi-Fi専用機やオフライン機として、音楽・動画・読書・カメラ用途で再利用するのが賢い選択。
「まだ使える」という気持ちは大切ですが、デジタル機器において「安全性」は機能以上に重要です。サポート終了は、あなたの情報を守るための「買い替えのサイン」と捉え、新しい機種への移行を検討してみてください。
新しいiPhoneへの移行は面倒に感じるかもしれませんが、最新のiOSには便利な新機能や、驚くほど快適な動作速度が待っています。ぜひ、この機会にスマホ環境を見直してみましょう。

